俳句とみる夢

笠原小百合の俳句な日々。

季語と競馬エッセイ【1】「節分ステークス」と「オープン入り」

競馬が好きだ。そう言うと競馬未経験の知人たちは興味を持って競馬について尋ねてきてくれる。彼ら彼女らにとって競馬は、入り口がどこかもわからない未知の世界。例えば、中央競馬のレースは1つの競馬場で1日に12レース行われる。これは意外と知らない人も多いようで、「そんなに走るの!?」と驚かれる。1頭の馬は1レースしか走らないと補足すると、「そんなに馬ってたくさんいるの!?」とまた驚かれる。その度に、競馬好きとしては当然のことでも世間一般的には知られていないことは多いということを思い知らされる。

 

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JRA公式サイトによれば令和4年1月23日現在、8,853頭の競走馬が登録されている。地方競馬も含めれば更に頭数はぐんと増えるが、今回は中央競馬のみを例として挙げる。中央競馬には9000頭近い競走馬たちが存在しているが、彼ら彼女らはどんなレースにでも出走出来るわけではない。競馬のレースにはクラスがあり、競走馬たちは競走成績によりクラス分けされる。

 

まずはデビュー戦である新馬(メイクデビュー)に出走する。1着となれば次のクラスに進むことが出来るが、勝てなければ未勝利となり、勝つまでは次のクラスに進めない。そのため、未勝利を脱せずに引退となる馬も少なくない。ここを勝ち抜くことは競走馬として生き残るためには必須なのである。

 

勝ち上がると1勝クラス、2勝クラス、3勝クラスという風にクラスが上がっていく。2歳戦については少し複雑なのでここでは割愛するが、この3勝クラスまでが条件クラスと呼ばれているレースである。競馬で「勝つ」とはイコール「1着」のことであり、どんなに惜しいレースだったとしても2着では上のクラスに上がることは出来ず、典型的なピラミッド型のクラス体系となっている。

 

条件クラスを卒業すると今度はオープンクラスに上がる。これは「オープン入り」と呼ばれ、ここまで来れる馬は競走馬の中でもかなりの上位の馬ということになる。オープン入りした馬は、オープン特別、リステッド、G3、G2、そしてG1の舞台で戦っていく。G1を勝利する馬というのはピラミッドの最上位に存在する、極めて稀有な存在なのだ。

 

条件クラスからオープンクラスに上がれるかどうか。その節目となるのが3勝クラスのレースである。今週行われる3勝クラスのレースは全部で5つ。中でも「節分ステークス」は、まさに名は体を表すレースではないだろうか。

 

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節分ステークスのレース名の由来となっている「節分」は冬の季語。晩冬も晩冬、まさに冬の終わりのその日のことを指している。そもそも節分とは四季の変わり目のこと。年に四度訪れるのだが、現在では冬から春へと変わる節分のみが重要視されるようになり、「節分」イコール「立春の前日」という認識になっている。ちなみに2022年の節分は2月3日。明日から春であるという節目の気分を感じられる日でもある。

 

節分の今日より笑ふ人となる  藤原暢子

 

句集『からだから』所収の一句。「節分」という節目への思いは作者の決意となり、ストレートに心に響く。決して、普段から笑わない人ではないのだと思う。むしろ友人たちからは明るい人と思われているような気がする。そんな明るさのある強さが「笑ふ人となる」という言い切りの形から感じられる。もっと自分の心の底から笑いたいと願う。それは春へ向けての節目である「節分」であるからこその願いのようにも思える。

 

「節分」が季節の節目であるならば、「節分ステークス」は競走馬たちのクラスの節目である。念願の「オープン入り」を目指し、ようやく3勝クラスまでたどり着いた競走馬たち。しかし、オープン入りを果たせるのはたった1頭のみ。「節分ステークス」を勝利し、このレースを自らの節目とするのはどの馬なのか。騎手をはじめ関係者の方々が勝利した馬を笑顔で囲む姿が見られることを楽しみにしたい。節分ステークスは明日、1月30日(日)15:10発走予定。東京競馬場の芝1600メートルで行われる。

 

笠原小百合 記