俳句とみる夢

笠原小百合の俳句な日々。

箱森裕美句集『脱ぎ捨てて』 ブレない視点と狂気に似た何か

箱森裕美さんの句集『脱ぎ捨てて』を読みました。

第十回百年俳句賞の最優秀作品から成る句集で、俳句ライフマガジン『100年俳句計画』1月号の付録として発行されました。

 

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箱森裕美さんの句は「清新でヴィヴィッド」というのが第一印象でした。

水分の多い果実を真っ二つにしたときのような清々しさ。

それでいて、句を詠む技術も確かで、読んでいて安心感もありました。

フレッシュなんだけどそこに頼り切ることなく、しっかりと作られている句集だと感じました。

 

読み進めていくと、とにかく作者の感覚の繊細さに心を掴まれます。

視野が広く、それでいて一箇所にピントを合わせるのがとてもうまいと思いました。

 

あと、狂気とも少し違う気がするのですが、それに似た心の静かな叫びのようなものを感じました。

何気ない句でも深く読み込んでいくと狂気に似た何かに突き当たったりして、とても楽しめました。

一見爽やかな句なのがまた良いんですよね。

 

それでは以下、特に好きな5句の鑑賞をしていきたいと思います。

 

秋澄みて昔の写真よく燃える

少しドキっとするような取り合わせです。

「昔の写真」を燃やしているという影を感じるような光景。

そこに「秋澄みて」という爽やかな季語を持ってこられたところが巧みです。

実景というよりは心象風景に近いのかもしれません。

「秋澄みて」から、過去を抹消してしまいたいという憎むような気持ちではなく、過去に囚われないぞという前向きさが感じられました。

 

秋雨に積むブロックやどれも赤

作者の自制心と表現力高さを感じました。

わたしだったら「ブロックのどれも赤」としたくなるところです。

そこを「ブロックや」と切れを入れることで、「どれも赤」が独立した呟きに思えます。

一呼吸置いて「どれも赤」という心の台詞を持ってくることで、作者の姿が実像として浮かび上がってきます。

子どものブロック遊びって、同じ色ばかり集めてくることが多いですよね。

しかしこの句は大人がブロックを積んでいると考えても面白いと思います。

しかも色は「赤」というところに、ほのかな狂気を感じます。好きです。

 

果実酒の果実浮きたり冬館

果実酒はサングリアをイメージしました。

「冬館」なので、もしかしたらホットサングリアでしょうか。

黄色とかオレンジといった色も連想出来て、あたたかな冬館を思いました。

 

また出会ふ別の桜吹雪のなかで

「別の桜吹雪」と言うことで、今も桜吹雪のなかにいることがわかります。

今居る桜吹雪はもうすぐ終わってしまうのでしょう。

しかし、また出会えるという確信が作者にはあります。

輪廻転生のことを詠んでいると考えても面白いかもしれません。

ここまで突き抜けた表現であれば、作者の世界に心地よく酔いしれることが出来ます。

恥ずかしがったり途中で冷静さを取り戻したりせず、自分の世界を貫いているところが大好きです。

 

指は三つ編みを続ける立夏かな

句集のなかで一番好きな句です。

小学生の頃、友人の髪を三つ編みにして遊んだ記憶があります。

お喋りに夢中になったり、よそ見をしたりはするけれど、指は三つ編みを続けている。

こういう何気ない仕草、行動を改めて句として見てみると面白いです。

そこには作者の発見があり、それに便乗させていただき、わたしも発見ができた句でした。

 

 

句集『脱ぎ捨てて』には、わたしの普段詠む俳句とは少し違う世界が広がっていました。

けれど、真ん中にある想いはとてもよく似ているように思います。

心を動かされるというのはこういうことを言うのだなと思いました。

また、俳句の可能性というものも強く感じました。

作者の句をもっと読んでみたいです。

裕美さん、この度は受賞&句集刊行、おめでとうございました!

 

笠原小百合 記