俳句とみる夢

笠原小百合の俳句な日々。

柴崎友香『続きと始まり』を読みました

猫氏のこともあり眠れなかったので、小説を読みました。
柴崎友香さんの『続きと始まり』(集英社)という長編小説です。

 

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全く別々の場所に暮らす3人の日常を描いた物語。
3人は知り合いでも何でもないのだけれど確かに同じ世界を生きていて、一瞬のような出来事でも数多の人生が交錯しているのだと思うと、世界が愛しくなるような気がした。
一方、地震や戦争などをはじめ、地続きのはずの世界が遠く切り離されて感じられたり、どうしようもない無力感を突きつけられたりもするのも事実だ。
結局それらとのバランスをうまく取りながら自分の日常を送ることしか出来ないという、やるせなさ。

 

全部に真面目に向き合っていると自分が狂いそうになる。
だからと言って、見て見ぬふりをして良いのか。
常に自問自答をするけれど、自分の小さな平和を守ることに精一杯で、そこから先に進めない。
そんな状態はぎりぎりと削り取られるようにダメージを負い続けるようなもので、表向きは平気な顔をしていても心はどんどん摩耗していく。
でもそれを「弱い」の一言で片付けてしまいたくはない。
決して強くなんかはないのだけれど、普通っていう言葉も好きじゃないし、みんな同じだよねなんて慰めの言葉はもっと要らない。
こういう一言では上手く言えない思いを伝えるために、小説は存在していると私は思っている。

 

だから、感想を上手に言おうだなんて思わない方がきっと良い。
小説を読んで、感じて、膨らんでいく思いを残していけばきっと良い。
そこから色々な広がりも見えてくるのだと思う。
わたしは書評家ではないので、これからも自分の心を探りながら読書感想文を綴るのだろう。

 

話が逸れてしまった。
つまり、久々に長編小説を読み切って、それがとても私にとってよい物語だったことが嬉しくて、余計に眠れない夜になってしまったというお話。
不思議な時空に放り出されるような読後感は浮遊感にも似ていて、自分の上下左右がすこしわからなくなるような軽い混乱。
これは、よい読書体験の後によくあるやつ。
柴崎友香さんの作品では『きょうのできごと』が一番好きだけれど、それに似た空気もありながらまた違った立ち位置の作品として機能しているのがこの『続きと始まり』なのだろう。

 

やっぱり好きだ、と思う。
好きな作家がいるというのは幸せなことだなと思う。
大切な夜に読み終えることが出来てよかったと心からそう思う。

 

 

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